ホタル族と十時族

一週間のご無沙汰でした……といっても訪米したわけではなく(笑)、単語拾いをかねて亀のごときスピードで本を読んでいたのである。どうしても精読せざるを得ないのだが、これはこれで片っ端から読み飛ばすのとは違った面白さがあるものだ。 　ＶＡＸさんが書いて下さった米国のレストラン風景はなかなか興味深かった。こういうのをまた書き込みして下さればありがたいと思う。頭の片隅にしまっておけば、小説の中で似たようなシーンが出てきた時に、おのずと読み方も違ってくるからだ。 　さて、次に渡米された時にＶＡＸさんに見てきていただきたいことがあるので(笑)ここに書いておきたい。 　読み終えたばかりのスティーヴン・キングの短編集の中に "The Ten O'Clock People" という作品がある。「十時族」とでも訳したらいいのか、要するに午前１０時のコーヒー・ブレイクにコーヒーを飲まず、ビルの外に出て煙草を一服する連中のことだ。うまい名前をつけたものだと思う。 　ちょっぴり中身をご紹介しよう。知らぬ間にエイリアンが地上に勢力を伸ばしている。首から下は普通の人間なのだが、頭と顔は普通ではない。化物なのである。ところが煙草を吸わない人間は化物の正体を見破れない(笑)という皮肉な設定になっている。喫煙者にだけ化物の顔が見えるのだ。 　いまや肩身の狭い少数派となった喫煙者たちは、一種の地下組織を作って化物と対決しようとする。……フェアプレイの原則にのっとり、後は読んでのお楽しみということにしておこう。 　キングは「十時族」をボストンでみかけたらしい。ふだんなら互いに口をきかないようなさまざまな階層の人々が、煙草を吸いながら一緒に話をしている。その光景が作家の興味をひいたらしい。 　かつて酒場の中は白人席と黒人席に分けられていたが、現在は喫煙席と禁煙席に分れており、しかも喫煙席は昔の黒人席と同様に薄汚く設備も悪い……というあたりの描写を読むと、このキングという人、ただのＢ級作家ではないことがわかる。 　この「十時族」、ＶＡＸさんにはぜひ次回は注意してごらんいただきたい。ご報告をお待ちしている。

(1994年8月)

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