悲しき表計算

表計算ソフトは完全に「仕事持ち帰り派」御用達だろう。まさかこづかい帳に使うなんてね。冗談としては面白いけれど、むなしさを感じるばかり。家計簿だって似たようなもので、せっかくあるんだから無理にも使おうというところか。 　どこかでカロリー計算に利用している、という実例を読んだことがある。たぶん糖尿病かなにかの食餌療法なのだろう。だが、健康人ならば、魚から野菜までバランスよく適量摂取していればすむ話で、これは一般性がない。第一、計算結果がどうあれ、真夏のビール１本、とても我慢しきれるものじゃない。 　株や競馬に表計算を使う、という方もおられるようだ。筆者はこちらのほうは門外漢だから、ほんとうに役に立つのかどうかはわからない。しかし、表計算ソフトを使ったから必ず株でもうかったり、競馬に勝ったりするとは到底考えられない。実用というよりも、一種の趣味と割り切ったほうがいいのではないか。 　簡単なデータベースがわりに使うという手もある。しかし、これはやってみるとわかるが、非常に使い勝手が悪いし、メモリを増強しないと大量のデータは扱えない。便利だなと思うのは、やはり罫線を使った表づくりである。名簿などは表計算ソフトで作るにかぎる。一度やってみたら、ワープロなんか二度と使いたくなくなるほどだ。ただし、家庭でそうひんぱんに表を作る必要があるかというとおおいに疑問だし、せっかくの「計算」機能が泣くのではないか。 　これはソフトの性格上やむをえないことだ。どうしても仕事がらみになってしまう。家庭のパソコンという観点からみれば、もっとも必要度の低いソフトといっていいのではないか。 　筆者の知人はさる会社の管理職である。したがって、残業しても時間外はもらえない。そうかといって予算の時期など、どうしても時間内では仕事はかたづかない。どうせなら家で仕事をしよう、と彼は考えた。ディスク一枚ポケットに突っ込んで、彼は自宅に帰る。好きな音楽を流し、優雅にコーヒーなんぞ飲みながら、表計算ソフトで仕事をバリバリかたづけるわけだ。 　実にスマートである。……スマートではあるが、なんとなく同情を誘う話ではないか。そういえば、生徒の偏差値計算に使われたり、げに表計算は悲しいソフトである。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(1992年7月)

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