女は魔物
　ジェイン・スタントン・ヒチコックの『魔女の鉄槌 (The Witches' Hammer)』と いう本を読みました。 性・暴力・オカルトと三拍子揃った (?) なかなか面白い小 説です。ヒチコック女史にいわせると、魔女とはすなわち女の内に棲む狼であり、 魔女に対する恐怖はすなわち男の女の獣性（もっぱら性的方面にあらわれる）に対 する恐怖であるということになります。下世話に申せば、女は魔物ということでし ょうか (笑)。

　女主人公の「狼」の目覚めを強調するあまり、やや不自然な箇所も見受けられま すが、後半を一気に読ませ、娯楽オカルト・ミステリとして十分楽しめます。魔女 狩りを行うカトリック系狂信集団の儀式には、オウム事件や、かつて米国で中絶に 反対する過激派が取った行動を思い起させるものがあり、荒唐無稽とはいいきれぬ 凄味を感じさせます。

　さて、題名である『魔女の鉄槌』というのは、実在する中世の魔女狩り教本の名前で、魔女に下す鉄槌という意味です。この小説の中にはいくつか引用文があ り、それが無類におもしろいので、ほんのさわりだけご紹介致しましょう。 
        女房に支配せられ、強いられ、命ぜられ、おのれの望みを
　　　　なすことを禁ぜられるまま、女房の望みにあえて抗するあ
　　　　たわざるがごとき夫をもって自由なる人間といいえようか？
　まあ、このへんは平然とパソコン道楽をするぼくたちには関係ないかな (?)。 
        女は死よりにがし。なんとなれば肉体の死は公然たる恐る
　　　　べき敵なるに、女は口先巧みなる隠然たる敵なればなり。
　いやあ、うまいこといいますね。……と、ここまでは笑って読めるのですが、こ の先がちょっと気違いじみてまいります。映倫ではなくパソ倫にひっかかりそうな ので、一部そのままにしておきます。興味のある方は辞書をひいてください。 
        男の member がいささかも動かず、coition をなすあたわ
　　　　ざる時はこれ自然なる感覚欠如のしるしなり。しかれども
　　　　もし刺激に応じて直立し、しかも行為をなすあたわざれば、
　　　　これ魔術のしるしなり。
　読んでおわかりのとおり、全く男の身勝手を絵に描いたような狂った論理で、男 の不能も不妊も、すべて魔女（＝女性）のせいにしてしまうものですから、ヒチコ ック女史の見解にも一理あると思います。

　というわけで、中世の奇書『魔女の鉄槌』の一部を拝めるだけでも、この『魔女 の鉄槌』（ややこしい）には値打があるといえましょう。物好きなあなたにお勧め します。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(1995年12月)

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