悪口オン・パレード

 先日TVでアメリカ人が「英語の悪口はひどく汚いのがあって、とてもここでは口にできません」という意味のことをいっていました。そうなると知りたくなるのが人情ですね (笑)。物好きにもスティーヴン・キングの "Needful Things" から抜き書きしたものをいくつかご紹介しましょう。

 むろん学問的興味から掲載しているわけでして (笑)、 どうか誤解なさいませぬよう。

 (F) とあれば女性、(M) とあれば男性のセリフとお考えください。
(F) Nettie.  That cunt.
   (ネティだな。あのアマめ)
 ご存じのとおり、cunt はズバリ女性の性器をさします。
(F) I wipe my fucking ass on your last warning!
   (おまえの最後通告なんてあたしのケツで拭いてやるとも)
ass はお尻というより「ケツ」。fuck からきた fucking は強調です。 goddamn なんてのも使われるようです。強調するために「クソたれケツ」といってもよろしいんですが、う〜ん、たしかに口にするのをはばかりますなあ (笑)。
(M) Shit on toast.
   (くそ;くそくらえ)
shit は「クソ」で、「ウンチをたれる」という動詞にも使われます。 ここではどっちかわかりませんが、だぶん動詞のほうでしょう。いずれにしてもトーストにウンチというのはおだやかじゃありません。
(M) Your motherfucking backstabbing Judas-kissing FRIEND!
   (てめえの、きたねえ、ワナにはめて裏切りやがる友だちさ!)
 motherfucking は何といいましょうか「かあちゃんとナニする」というのがもと の意味だと思います。backstabbing は「背中からズブリと刺す」、Judas-kissing は「キリストを売り渡したユダみたいにキスする」という意味でしょう。
(M) You stupid crazy motherfucking sonofabitch.
   (このノータリンのキ印のすかたん野郎め)
sonofabitch は son of a bitch を圧縮したもので、bitch は「めす犬、売女」ですから、そのせがれになるわけです。似たようなことばに sonofawhore(= son of a whore 娼婦のせがれ) というのがあります。

 son of a whore に関連して、シェイクスピアのハムレットには whoreson という単語が登場し、 damned, cursed(いまいましい)という意味に使われています。
  FIRST CLO.  A whoreson mad fellow's it was(ハムレット 第5幕)


 (道化1  とんだ気違い野郎の[ドクロ]だよ、そいつは)
 このように、悪口もなかなか奥が深いものです。奥が深いといえば、伝統のある(?) 悪口の代表格は bastard(私生児)でしょう。 これは現在でもさかんに使われています。
  LAER.  That drop of blood that's calm proclaims me
    bastard,          (ハムレット 第4幕)
 (レイアティーズ おれに冷静でいられる血が一滴でもあれば
      実の子ではないというも同じ)
 実の子ではない私生児からは、 当然身分の低い女や娼婦が連想されるわけで、son of a bitch や son of a whore は bastard と同じ系統のことばだろうと思います。

 あんまり書き抜きがないので、このへんでおしまいにしましょう。 わが国では「おまえのかーちゃんデベソ」とか「くそったれ」という表現はよく耳にしますが、cunt だとか fuck をもろに使った悪口は聞きませんね。 もしご存じの方がいらしたらお教えください。

                                      (1994年2月)

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