広尾町に行くことが多い。この十勝の小さな町には、その人口からは想像もつかないほど立派な十勝港という港がある。その港めざして車を走らせるのだ。釧路からは150 km強、車で約2時間半。

　広尾町まであと30数キロ、右手に丘、左手には畑(原野？)という場所にさしかかると、緩やかな右カーブの先に一本の木が見えてくる。初めてその木を見たとき、ぼくはハッとした。

　むろんそのへんには、木はほかにいくらもある。いずれも小ぶりな低木であり、その木もまた決して大樹ではない。しかし、それには「一本の木」としかいいようのない存在感があるのだ。その木の回りには広い空間があって、一本だけぽつりと立っており、いわば孤高を保っていることもある。ほかの木々よりも背の高いこともある。容姿端麗である上に、目につきやすい場所に立っていることもあるだろう。

　その木を見るたびに、ぼくは声をかけたくなる。いい年をして、まるでこどもみたいなものである。

　　　　　よう、また来たぜ。おい、また来るぜ。

　あの木がなくなったらどうしよう。このごろでは、ふとそんな迷信じみた思いにとらわれることさえある。

　この写真を撮るために畑に足を踏み入れたぼくは、雪に右足を突っ込んで散々な目に会ってしまった。

1998年12月撮影