石川啄木が釧路に滞在したのは、わずか数ヶ月間であった。しかし啄木の街であることを、釧路は滑稽なまでに強調している。たぶん、めぼしい観光資源に恵まれぬ釧路市としては、この歌人の知名度に頼らざるをえないのだろう。

　それにしても……犬も歩けば啄木の碑に当たるのが釧路の街である。いったい全部でいくつあるのだろうか。

　啄木をどうしても偉い歌人だとは思えぬぼくは、歌碑をみかけるたびに、なんだか居心地の悪い、そして熱心な市民の方々にはもうしわけないような気がするのである。

　先日港文館を訪れたところ、地元の啄木研究家として名高い北畠先生に初めてお目にかかり、光栄にもいろいろ教えていただいた。

　展示されていた啄木全集の日記のページを読むと、無駄がなくきびきびとした実にいい文章である。「う〜む、うまい文章ですね」とぼくがくやしそうにいうと(笑)、先生は満面に笑みを浮かべて、「いいでしょう」とおっしゃった。

　「われ泣きぬれて……」なんて歌は大嫌いだが、そのうち散文を読んでみようと思う。そこで気分一新、本郷新作の啄木像を撮り直し、差替えることとした。

(2002年4月14日)