広尾方向から十勝川にかかる大橋を渡って釧路に行くには、まもなく左に折れ、浦幌に向うのが普通である。左折せずにそのまま直進すると十勝太、さらにひたすら前進すると、道はやがて砂利道になる。

　悪路をものともせずに車を走らせていると、だんだん心細くなる。途中で道が尽きるのではないかと不安になったけれども、地図によればたしかに厚内の街まで通じている。やがて眺望が開け、はるか向うまで道の延びていることがわかる。

　広重の描きそうな景色に出会った。このあたりには昆布刈岩というのがあるらしい。小さな写真ではわかりにくいけれど、右手にみえる岬の先端付近には、車のすれ違えない一車線の小さなトンネルが口を開けている。

　これより先は、下りカーブの連続する急勾配の山道である。車のわだちを除けば、20世紀末の道路とは思われぬ不思議な風景の中を行くのは、ひさびさに胸の高鳴る経験であった。

　例のトンネルを抜けると、またしてもデジャヴュが待ちうけていた。

　もし自分が徒歩旅行者だったら、どんな思いでこの道を行くことだろうか、とぼくは想像した。

　そして、たしかに昔自分はこんな道を歩いたことがあるはずだ、とも思った。なつかしさとともに、想い出したくない記憶を呼び起こしそうな、ぼんやりとした恐れや不安を感じたことも事実である。

　厚内へ至る海岸沿いの道
1999年6月撮影