古いお店である。築何年かは知らないが、ぼくの生まれる前からあったことは間違いない。

　かつて味噌・醤油の醸造を業としておられたから、一般には吉田味噌屋さんで通用していた。店の近くを通ると、少しつんと鼻につく匂いが漂っていた。道路わきには茶色の甕がいくつも置かれていたように記憶している。

　つい先日お店の前を通ったら、窓に板が打ちつけてあった。ちかぢか取り壊されるのではないか。よくみれば、建物全体がいくぶん傾斜しているようだった。慣れ親しんだ建物が姿を消すことには、まことに愛惜の念を禁じえないが、やむをえないことなのだろう。

　こうしてまた街の風景が変ってゆく。

【追記】

　ぼくが定点観測している(？)吉田商店はまだ残っている。２年間の歳月が及ぼした影響を見ていただきたく、最近撮影した写真を掲載する。

　年々歳々花相似たり……写真では見にくいが、同じ紫の花がまた咲いている。しかし、お店の看板は取り外され、煙突は傾き、二階の窓には板が打ちつけられ、台所の窓に貼ったビニールは破れている。それでも吉田商店は20世紀を生き抜くかもしれない。

　吉田商店は2000年9月上旬に取り壊された。
　(See さらば、吉田商店)